航空管制官、再受で医学生なう。

航空管制の話題を中心に。航空と医療をつなぐ。

極論で語る航空英語⑤ マジカルナンバー7±2

 いよいよ臨床実習が始まりました。初日から手技は無いだろうなぁ……と思っていましたが、早々に処置の見学。
(格好だけでも同じく、標準予防策しておこうっと^^)
という邪な気持ちでいたら、本当に処置のお手伝いをさせていただきました。さすが「地域医療志向の臨床医」という名の即応部隊育成組織です。これ、手袋せずにメモばかりしていたら、やる気を疑われただろうな……Uniform Sierraです。

 

 唐突ですが、皆さんは一度に数字を何個覚えられますか?

「のぞみ205号は新横浜を739分に出発する」

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フリー素材「いらすとや」

これは大丈夫そうでしょうか。それでは、次の数字は……

「(C/S), fly heading 350 vector for spacing, descend and maintain FL270, maintain mach point 85, transit to 310 knots」
参考:

トランジット・スピード:酔っぱらいライダーの独り言:So-netブログ

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フリー素材「いらすとや」

 11個の数字。そしてコールサインに数字が含まれればその分が増えます。正直、しんどくないですか……?

 実はこの話題、Twitterで度々「一度に沢山数字を言われても覚えきれない」とパイロットの皆さんがボヤいているものです。

 

 CAB管制官を養成する航空保安大学校では、従来、心理学の授業があり、そのときに人間の脳の傾向や能力の限界について学んでいました。(現行カリキュラムでは、ヒューマンファクター、ヒューマンエラーの項でしょうか)
 そのとき必ず学んだのが「認知心理学」です。特に業務に直結する話が、認知心理学の先駆け・George Armitage Millerが短期記憶について提唱した「Magical Number 7±2」です。
原著論文:Miller, G. A. (1956). "The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information". Psychological Review. 63 (2): 81–97

 その後の関連研究も含めて、航空英語に生かせるポイントだけを抜粋しますと、
・人間が短期記憶できるのは7±2個の情報
・意味のある内容を「チャンク(かたまり)」として1つの情報に集約できる
というものです。
 したがって、航空無線という復唱が求められる短期記憶の場においては、一度に送信する数字情報は7前後に留めることが望ましいのです。

 特に飛行中は、乗員に多大な身体的・精神的な負担が加わります。これは「航空医学」という乗員の生理学的変化を科学する学問が成立するほどの事象です。
 飛ばない管制官にとっては分かりにくいものがありますが、極端な例を挙げますと、トム・クルーズ主演の不朽の名作「トップガン」の最初の戦闘シーンで、ロックオンされたクーガーがマトモに飛べなくなりましたよね。あれ、もしクーガーが地上で銃をつきつけられただけなら、クーガーはすぐにいつも通りに戻ったと思いませんか?精鋭と呼ばれる軍人だし。飛んでいることによる生理学的変化、そして空中戦による身体的・精神的負荷で、一時的に正常な思考が出来ない状態になっていたことを示唆すると思います。したがって「クーガーが腰抜けでマーヴェリックがタフな奴」という単純な解釈は不適切。
 戦闘機パイロットほどの負荷を受けない民航機パイロットが相手であっても、コミュニケーションのエラーを発生させないためのフェイルセーフの精神を心がけたいものです。

 

 最後に、余談です。私の友人、
「針路、高度、速度……数字多くて覚えられへん!」
とボヤいていました。
「そのへんは上2桁だけ復唱すればええやん、ゼロなんか添え物や」
とアドバイスしたところ、処理容量が上がったようです(笑)。そんな些細なコツもあるので、やはり人と話してみるのは何かの役に立つかもしれませんね(笑)。

 それでは、Good day.