航空管制官、再受で医学生なう。

航空管制の話題を中心に。航空と医療をつなぐ。

Read back は、お忘れなく

 1年前、医学部・医者の世界に染まりきる前に、航空管制官だった自分の考え方を記録しておこうと思い立って設立しました、このブログ。皆様のおかげで、計4万pvを超えました。ありがとうございます。Uniform Sierraです。

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ありがとうございます

 航空系の知識としては古くなる一方だと自覚している私のブログですが、せっかくアクセスしてくださった方のために、これからもぼちぼち役立ちそうな知識をご紹介していきたいと思います。

 

 

 Twitterを見ているとビックリするのですが、航空管制官の無線通信が、時折一般の方の話題のネタになるようです!面白いの?
 元・本職としましては、すごくbuzzってるネタが間違っていても、航空ファンの皆さまが趣味の世界でお楽しみ頂く分には「あぁ、そうですか」と特に気にならないのですが、先日、どうしても許しがたい間違いを見つけてしまいました。以下のやり取りです。

Controller: (Call sign), wind XXX at XX, runway XX, cleared for take-off.
Pilot: Roger.

…………らじゃあ?……え、もう1回確認するよ?「R.O.G.E.R.」(フォネティックコードでスペルアウト)の「ラジャー」???
離陸許可で Read back しないなんて、ありえない!!航空安全の勉強を全くしていません、と言っているようなものじゃないですか!!
 私の顔、こんな感じになってます↓↓

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フリー素材 「ぱくたそ」より

  Read back(復唱)が無ければ、パイロットに対してRead back を求める用語が定められているほど、航空管制の世界ではRead back が重要視されています。

 

  パイロットのタスクが増える、Read back 。Read back が徹底されるのは、痛ましい事故がきっかけでした。

 

テネリフェ空港ジャンボ機衝突事故
 1977年、スペインのカナリア諸島にある、テネリフェ空港の滑走路上で、2機のジャンボ機が正面衝突しました。当時、滑走路には濃い霧がかかっており、管制官はもちろん、地上の航空機同士も位置を視認することが出来ませんでした。
 これはヒューマンファクターの例として様々な観点から検証されているものなので、興味のある方はリンクから Wiki のページをご覧ください。

 

 事故の要因の一つとして挙げられるのが、管制官パイロットの無線通信に齟齬が生じたことでした。

 事故直前、テネリフェ空港は様々なハプニングが重なり、A機は一刻も早い離陸を望んでいました。そのような状況でA機は、出発に関わる語を耳にして、自機に対する離陸許可を受けたと思い込みました(他者に対する呼びかけにも関わらず、自分に対する返答を期待したために起こる「聞き間違い」を、 Wishful hearing という)。その際A機は、定められた離陸許可の用語を用いないRead back を行い管制官「OK」という簡素な返事を返しました。実は管制官の言葉には「OK」の先に指示があったのですが、滑走路上にいたB機が送信した「我々が滑走路にいる」という通信と混信し、管制官とB機は混信の事実に気付かないまま、やり取りを終えました(航空無線で用いるAMは、FMと異なり、混信が起こった場合に音が重なって聞こえるので、混信の事実に気付くものである。しかしながら、今回は両者が聞き取れなかった)。そして、痛ましい事故が起こったのです。

 以来、上記に示したようなミスを誘いやすい状況を、管制官パイロットの双方が防ぐ対策として、適切な用語使用による(OKやRogerといった、簡素な用語を返答の代替とすることは認めない)Read back が徹底されるようになりました。

 

 

 パイロットの皆さんは、過去の航空事故を検証した、航空安全教育を受けているので、正しい用語での Read back を徹底しています。
 しかしながら、たまに「Roger」だけで全ての Read back を済ませようとする猛者もいらっしゃいます。そんな方にこそご理解頂きたいのです。

 無線通信の正しい用語を使用することが、貴機と同じ周波数にいる全ての航空機の安全に寄与することにつながります。管制官は決して、貴機と1対1で通信を行うわけではなく、周波数全体にトラフィックの状況を伝えるような情報の出し方を心がけています。だからこそ、正しい用語の使用が必要なのです。

 

 簡単に、ではありますが、Read back の大切さについてお伝えしました。
 「いやいや、それぐらいで目くじら立てなくても……」
と仰る方もいらっしゃることでしょう。
 安全を守るのに「それぐらいで……」と済まされることはありません。航空管制官の本質は、そういった些細なことに注意を向けて地道に安全を守る仕事なのです。

 

 それでは、Good day.