航空管制官、再受で医学生なう。

航空管制の話題を中心に。航空と医療をつなぐ。

「大学≒専門職養成校」に対する疑問

 もし私が18歳で医学部進学を諦めていたら、才能の有無に関わらず、薬学部か理学部で研究者を目指していたと思います。この人生じゃなきゃ、絶対に航空という業種はありえなかった。Uniform Sierraです。

 

 経済的に無理なくせに、もともと「就職」という発想が無かったので、私にとって大学教育とは、
「教養を深め、自分の興味のある学問を好きなだけ探究できる場所」
という認識でした。恐らくその時点で、一般の皆さんとかけ離れた認識であることを自覚しています。したがって近年の、
「大学で専門職養成!」
という風潮には否定的な立場を取っております。と言いつつ、うちの大学は「国試予備校」の呼び声高い。

 

 この10年ほど、多くの大学が専門職養成校を志向しています。航空分野でいえば、単なる工学部ではなく、細分化した専攻科が設置されています。その中で最も注目されているのが、パイロットの専攻科です。

 エアラインのパイロットを目指す多くの方は、航大や自社養成の狭き門を叩きます。航大や自社養成を目指すには、まず大学へ進学して単位を取得する(or卒業する)必要があります。
 大学在学中に航大へ進学することはできますが、パイロットを目指して一般の大学を卒業しても、自社養成枠で就職できなければパイロットになることはできません。したがってお金の都合のつく人は、エアライン就職のチャンスをつかむために、フライトスクール(時には海外)で多額の費用をかけて操縦免許を取得します。
 そのような背景があり、大学のカリキュラムの中で航空機の操縦免許を取得する動きが起こって、学科設立に至っています。

 

 管制官になりたての頃、とある大学のパイロットコースの学生さん達とお話をしたことがありました。
 そのときは久しぶりに同世代の子と話せるのが嬉しくて、運航に関する話よりも「大学生活はどんな感じですか?」という普通の雑談になってしまいましたが、
「僕たちはパイロットとしての自覚を持って日々生活しています!」
とキラキラした目で語っていたのが印象的でした。学生でこの殊勝な態度です。当時21歳の私、訓練と大学進学の夢の間で板挟み。絶対に「航空管制官としての自覚を持って日々生活しています(`・ω・´)キリッ」なんて言いきれません。

 同席していらっしゃった教官は、航空業界によくいるタイプの熱血漢な方で、学生教育に対する熱意を語っていらっしゃいました。確かに若い人に教えるのは、操縦教官にとって誇りに思うことでしょう。教官の言葉に応じて学生達は、
「教官みたいな哲学を持ったパイロットになりたいです!」
と答えていました。すごい信頼関係だなぁと思いつつ、そのとき私は、学生の言葉に引っかかりを覚えたのです。 

 

指導に疑問を持てない
 パイロットや管制官は、職業の起源が軍事にあるので、安全・命に関わる指示などが含まれる性質上、教官の言葉は絶対、という空気が残っています。最近の教育では、その風潮を改善しようとする動きがありますが、徒弟制に近いことは否めません。
 それはさておき、パイロットコースを持つ大学の正規科目として設定されている操縦訓練の教員は、ほとんどが民間の操縦訓練を請け負う会社に委託されています。したがって彼らは、学生教育の専門家ではありません。安全な操縦という技術を教えることはできますが、「効果的な教育」としての質は、教員個人の資質・能力に依るところが大きいといえます。つまり、免許もどこまで取得できるか?学生の卒業時のエアラインパイロット候補生としての完成度は、未知数です。
 また、学生さん達は訓練担当教官の癖を見事にコピーしちゃってます。会社ごとにカラーがあるので、教官の出身会社が異なると、学生のレベルもバラバラ……。大学側としては「個人の努力の差」と言い切るでしょうが、教官との相性は確実に存在すると、端から見ていた立場としては思います。

 

操縦訓練でエリミネートされても学位はもらえるのか?

 大学が専門職資格の取得まで支援するのは、とても手厚い教育だと思います。しかし、学生個人が大切な4年間の間にどのような経験を積んでどんな大人になっていくのか、専門職キャリア以外の観点で考えてみたことはあるのでしょうか?
 もし、何らかの理由で操縦訓練を諦めなければいけないとき、操縦訓練以外で卒業までの単位取得は可能なのでしょうか?転科が可能であれば問題ないと思いますが、入学を決める前にその確認が必要です。
 高校卒業時点で専門職になることを決めてしまった私の経験から言うと、もし大学を卒業した後で専門職(航空管制官)としての人生を送ることを決めていたら、自分の将来に何も疑問を抱かなかったと思います。しかし、まだ様々な可能性が残された10代で決めてしまうと、もし他のことに興味を抱いてしまった場合、修正することは(いろいろなしがらみもあって)至難の業です。

 

正直、お金次第。

 今年度から私大のパイロットコースの学生に対して奨学金を貸与する制度が設立されたそうです。
www.mlit.go.jp

 奨学金の貸与額が高額な医大生から指摘させていただくと、大学によっては貸付額相当の大学指定(←ここ重要)死亡保険の加入を義務付ける学校もあるので、契約書にサインするときはちょっと違和感を感じます。なのでサインするときは契約(誓約)内容を必ず確認してください。
 まぁ、そのことは置いておいて。
 「お金があって、将来はパイロットになることに何の疑いも無い」という人ならば私大パイロットコースに進学するのが、キャリア形成上のメリットが大きいでしょう。しかし、四六時中パイロットになるための勉強が続くので、普通の大学生活とは全く異なります。10代後半から20代前半、自分がどんなことをして過ごしたいか、十分に考えて進学先を決めるのが良いと思います。

 

 

 高卒→専門職社会人を経たからこそ、大学で学ぶことについて私は一方ならぬ思いがあることを申し添えておきます。
 大学は学位を取るための通過点ではありません。それを理解している人が今の日本社会には少ないように思います。
 「大学≒専門職養成」という図式を、大人が手放しで迎合するべきではありません。そもそも高い学費をかけて大学を卒業したのにそんなことを言える人って、大学時代は何をしてたの?と思ってしまいます。私が18歳なら、そんな貧相な価値観の大人の話なんて聞く気が起きません。
 これは、各個人に大学教育の意味を問われている問題です。

 

 幸い、今の時代はSNSで様々な立場の人の見解を知ることができます。SNSでは現役パイロットが、オワコンに近いブログでは元管制官がそれぞれ自論を述べています。どちらの意見も少しずつ正しいです。最後に決めるのは、将来を考える貴方自身。自分の価値観を大切にして、進路を選んでください。
 それでは、Good day.