航空管制官、再受で医学生なう。

航空管制の話題を中心に。航空と医療をつなぐ。

経験知を昇華させたい

 とある講義で、某省の職員の方がお見えになりました。保安大時代からの実感として、公務員の話は総じてつまらないものなので、普段ならそっと目を閉じるのですが、この日の先生は
私は科学者ですが行政官の面もあります。海外ではそれがスタンダードです。
と、第一声から面白そう。ちゃんと刮目して授業を聞きました。居眠りしなかったことを誇らしげに書くんじゃありません!Uniform Sierraです。

 

 日本の行政職員は、数年で担当が変わるので、「専門家」が少ないです。管制官のような専門職ならば、「私は航空管制の専門家です」と語っていいんじゃない?と思いますが、訓練機の多いターミナルで10年勤務していても、次の赴任地がACCだったりすると、全てが0になります。つまり、「○○空港の管制の在籍当時の専門家」にすぎないのです。前の官署で覚えたことを生かせる場面は存在するのですが、複数官署の経験で得たエッセンスを一般化するまでに至らないのが管制官の教育です。中堅以上の研修でInstructional Designの導入があると聞いたことがありますが、IDの専門家に言わせれば、「管制官は軍隊式の訓練だから、IDを導入するメリットが無い」とのこと。確かに、数多くのシナリオ訓練を受けて、頻度の高いシチュエーションに慣れるのが訓練の目的。経験知を一般化することは困難なのでしょうか?

 

 

 そのような状況で専門家が少ないから、偶然にも同じ部署を経験してしまったりすると、「『私が』何でも知ってます!」と言い切る方がちらほら。端から見れば「相対評価ならそうだろうけど、アナタが専門家としてその分野で努力するわけじゃなく、ちょっとかじってるだけでしょ」状態です。同じ官署に長くいる人も同様です。

 

 当然ながら今の行政のシステムと人事では、日々の業務を『流す』ことで精いっぱいで、業務の改善・向上のためにデータ分析をする職員を育成することはできません。
 管制官は自らを「職人」と呼び、センスと経験知を重んじる職種です。だからこそ、経験知を昇華させることに価値があるのではないかと思います。IoT/AIの活用が現実的な解決策だと思われますが、元データの精度・粒度によるバイアスが活用の課題となっています。したがって、本物の専門家が必要とされるのです。

 

 管制官もごく少数ながら海外出向がありますが、出向の成果がどのような形で表れているのか、見えにくいものでした。優秀な方ばかり選抜されるので、謙遜されているのでしょうが、くれぐれも若い人の前で「こういう人事が回って来たから今の仕事になっているんだよね」という消極的な動機を語って欲しくないと思います。最近入省している若い人は上の世代より優秀ですから、他人のアラに敏感です。上司の覚えめでたく……という方は、少なくとも真摯に仕事に打ち込んでいる姿を見せてください。そうでなければ誰もあなたについていきません。

 転勤で全てが変わってしまう公務員の仕事は、常に新鮮さを求める人には好ましいスタイルだと思います。しかし、人事次第で経験を100%生かせなくなるのは損失です。
 「職人」には、センスを譲ります。だからこそ、経験知を後進のために生かす道はないものでしょうか。その点が現行の人材育成に欠けている視点だと感じます。

 

 私自身、管制官時代は「職人」として技術を高めたいという気持ちが常々ありましたが、辞めた今となっては、管制官時代の経験とは一体???という状態です。管制官を目指す皆さんや管制官の卵に、経験を踏まえた精神面でのアドバイスすることは出来ますが、知識・技術面だって蓄積があるのにな……という歯がゆい思いがあります。
 現役の皆さまから「大人しく医者になるための勉強してろよ」と言われそうですが、ワイ、高スペックだから1個じゃ我慢できないの♪ 管制官時代も訓練中ずっと管制の勉強だけをしてるのは、効率的じゃないと思ってました。「訓練で得られるエッセンスに限りが無い」と語る人は一般化できない頭の処理能力なんだろうな……と思うのは私だけでしょうか?訓練は基礎と少しの応用で十分、それ以上は個人のセンス。それが管制官の仕事のはずです。
 それでは、Good day.