航空管制官、再受で医学生なう。

航空管制の話題を中心に。航空と医療をつなぐ。

英雄にならないでほしい

 文化祭の準備で忙しい、Uniform Sierraです。

 

 さて、本日は今年度の管制官採用試験の合格発表日でした。5ch、Twitterを見ていると、悲喜こもごもの様子が見られます。
 合格された皆さま、Welcome aboard.
 そして残念ながら今回ご縁が無かった皆さま、もっと良い就職先が見つかりますように。

 

  本日は、航空管制官について正しい理解をしたい方に向けて書いた記事です。ニュースをみて「素晴らしい英雄だ!」と思った方には受け入れがたい内容だと思われるので、この続きはご覧にならないでください。
 Anthonius Gunawan Agung氏のご冥福をお祈りいたします。 

  先日のインドネシアの大地震で亡くなった、若き管制官に関する話題です。報道で明らかにされている事実関係のポイントをまとめます。

①同僚は避難した

②21歳(日本の保安大生で言うならば現場出て1-2年目)の若手が一人で残った

③4階から飛び降りて避難しようとした

 

 まずは以下のBBCのリンクから、管制塔の状態をご覧ください。

 管制塔と思われる建物の4階部分のみ倒壊しています。3階以下は無事です。


 この報道を見て、世間は「自らの命を賭して数百人の命を救った責任感」を称えています。しかし、日本で同じことをやったら、

・滑走路は本当に安全だったのか?

・なぜ避難を優先させなかったのか?(緊急避難の後、管制業務を行う場所が指定されている)

・同僚はなぜ先に逃げたのか?

・どうして若手が1人で残ったのか?次席・主幹が不在だった理由は何か?

などなど、英雄ではなくて、こういう↓扱いです。

フライト (字幕版)

フライト (字幕版)

 

 映画の説明は省略します。

 

 採用試験に通ってハイになって、「インドネシア管制官に敬意を表し、責任感ある管制官になりたいです! 」とか言い出す輩がいそうだから、US先輩、あらかじめ言っておきます。
無鉄砲な奴は、安全を守れない。
 インドネシアの彼の行動を非難するわけではありませんが、元同業としては、今回の当該機が結果的に離陸できたことだけが救われる事実であって、航空管制官の判断としては、あまりにも知識と経験が少なすぎて、判断には疑問が残ります。

 

 医者も管制官も、チームで一つの目標を達成する集団です。チームで合理的な判断を目指し、小さなミスが起こらないようにお互いが支え合う存在です。したがって、一人の英雄は不要で、必要なのは支え合う仲間です。

 

 私が管制官を辞めた20代半ばだったら、きっとまだAgung氏に共鳴していたことでしょう。
 この数年、震災の津波被災地を訪れる機会が何度かあり、生き残った方が、生き残ってからこれまで思い続けていたことを伺い、私自身考えを改めました。プロだからこそ、現在だけではなく未来も考えて社会にどれほど長く貢献できるか客観的に評価しなければなりません。したがって非常時には、最も妥当性の高い判断を下す必要があります。

 航空管制官は、常時その性質の判断を求められる職種です。心ある人たちからは、時に冷酷に見えるかもしれません。「管制官の冷酷さに残る、アートな部分」については、また次の機会のお話にしたいと思います。

 

 もし英雄になりたい人がいるならば、ちょっと将来考え直すことをオススメします。それでも「どうしても僕は航空管制官になって英雄になりたいんだ!」と言う方がいらっしゃれば、ご連絡ください。良いお医者さんを紹介します。

 

 退職した立場だからこそ、「英雄を求める風潮」に一石を投じたいと思いました。航空管制官は、安全を合理的に判断できる人間でなければ、業務を遂行することはできません。「良いお医者さんを紹介します」の一文に、行間を読んでいただきたい次第です。

 だから声を大にして言いたい。これをきっかけにして、世界中の航空管制官に命を賭すことを求めないでほしい。それでは、Good day.